ネクストステップ


今は、ベリーニの季節じゃない。

  • ベリーニ

ベリーニは人の名前に由来したカクテルで、画家ベリーニ氏の展示会をヴェネツィアで行った時の記念に「ハリーズバー」のジュゼッペ・チプリアーニ氏によって作られたカクテル。ヘミングウェイが好んだ事でも有名。白桃とドライプロセッコというスプマンテ(イタリアのスパークリングワイン)を使って作られる。


本当はベリーニが飲みたくてたまらないけど、一番おいしい季節の楽しみを十二分に味わうために、今は今が季節のフルーツをつかったスプマンテのカクテルを、最初の一杯にする。
そうやってバーで過ごす夜は幕開けてきたが、今日はいつものバーは、いつも以上の混雑で、いつもの木戸の奥に、空席はなかった。


走ったらもしかしたら間に合ったかもしれない終電はどうでもよく、タクシーにのったらそれほど時間もかからずにあったかい我が家に着く、そのバーがある町。でもタクシーを止めるその行動を起こす気力がなく、冷たい風に耳をきんきんさせながら歩いて帰った。


帰りに考えていたことは、何か特別なことだったような、なんでもなかったような。


帰途の橋からは、川沿いの桜が水面に枝を差し出しているのが薄いピンクに煙ってきれいだ。春には。 通り沿いの大きな看板のラーメン屋からは相変わらず香る、むっとするとんこつのにおい。 夜23時まではあいてるスーパー。久しく開いているところを見ていない。 そんな、自分の日々の生活圏にあるものたちを見ながら、帰宅した。


生活は、同じようなことの繰り返しでありながら、確実に積み上がって行くもの。
そして、同じように、日々同じような繰り返しの中で、継続することが選ばれなかったものは、悲しくもありがたくも、積み重ねた量にかかわらず摩耗して行く。少しずつ。少しずつ。


懐古主義は嫌いだ。
Optimistで生きてきたし、帰納法的思考回路は変わらないだろう。


ネクストステップまで、きっと、あと、もう少し。