「地下鉄に乗って」★★★☆☆

経緯:また売店

浅田次郎の本を初めて読んだ気がする。
ぽっぽやというヒット作が映画化された時に、原作に触れることなく映画を見て泣いた記憶がある。(映画を取り違えていなければ)あの時の広末涼子かわいかったなあ。。


この物語は、憎くてしょうがない父親が生きてきた人生・味わってきた苦労を本当に(「実際」に)目の当たりにしても、父親のことをやはり愛することができなかったり、自殺をしてしまった兄の死直前に2度も居合わせても自殺を防ぐことができなかったり、「タイムスリップ」がリアルに起こっているファンタジーなのに、主人公にとって幸せなハッピーエンドはない。
あるのはただ自分の家族、自分の愛する人のあらわな真実、知らない方がよかったかもしれない事実と直面するということだけ。
たとえば、横暴なだけだと思っていた父親の不器用な面や他人から愛され可愛がられていた人間味、従順で我慢ばかりしてきていると思っていた母親の知られざる過去の恋愛とその顛末。
子供にとって親は「親」の顔しかないように感じることが多いし、またみち子の母親が「親は子供に幸せにしてほしいとなんて思わない」というように、通常親自身が子供に対して「親」であり続け、「親」という一面以外を見せることはないのだと思う。
そんな、子供の立場からは見ることができないはずの親の過去に対面することは、親を(当然なんだが)「人」として感じさせる。当たり前のことなのに、忘れてしまうこと。子供から見ると不思議ですらある、親の過去や青春というものの存在を、この物語はリアルに思い出させてくれる。
家族や親子の妙について感じるとともに、戦中から戦後の日本社会についての荒々しい時代のうねりも感じることができる、この物語。自分の世代には到底想像もできないような労苦を乗り越え、辛酸をなめながら、先人達はこの日本を造り上げてきたのだなあ、と改めて思った。
なんとも言えない、生な感じのするファンタジー。ハリウッドに持ってってもこの面白みはわからないのだろうなあ。