香りの効能


母は、香水を好まない人で、昔からその香りが
きついのを嫌っていた。
私もその影響か大学生くらいまではほとんど
つけていなかったが、今は棚に7,8種類の香水の瓶を
並べているし、アトマイザーを持ち歩く。
平日の朝、ニュースを見ながらメークをして、
最後にしゅ、と香水をつける。All set.
そうやって気持ちを切り替えて会社に向かうため
駅に向かう、心なしかぴっと背筋が伸びて。


退社後に予定がある時なんかは、退社時にメークを
直して香水をつけ直すがその時も同じ。
ひとふりで、今度は仕事モードが抜けていく。
単純な人間なので香り一つで効果は大きく、自分が
(特に仕事中は忘れている)女性である、という
至極当然のことをきゅっと認識させてくれる。


香水に限らず、前は柑橘系やさっぱりした香りだけが
好きだったが、いつからかローズの香りがもたらす
華やぐ気分が好きになって、お風呂周りのものが
いっせいにフローラルになったこともあった。
逆にいうとそういうサポートなしに自分の女性性を
認識できない、ということなのかもしれないが、
それだけに香水が嫌いでにおいの強いものを好まない母が
いつも自慢の綺麗な母であることに敬意を抱く。


私にはそこまでの女らしさはないので、日々香りのチカラを
借りながら、背筋を伸ばしている。


アトマイザーに香水を入れ替えながらそんなことを
考えていたら、もう一つ香りについて思い出した。


この間、いつだったかの週末に、天気のいい日差しに
気持ちよく窓を開けると、近所で何か(タマネギとか、そういうもの)
を炒めている、朝ごはんの準備をしているような香りがした。
そして、香ばしいコーヒーの香りも。


その香りに、近くに確かに人が息をして、日々を暮らしている、
という空気を、雰囲気を、人の「気配」を、圧倒的に認識した。
ちゃんと、あたたかいもの、おいしいものを
食べようとしているぬくもり。生活。
それを感じて、幸せになった。
朝においしい一杯のコーヒーを、ごくふつうにすすって、
おいしいなあ、と感じられること。
そのマグカップの隣にはあったかい食事が一緒にあって、
おいしいなあ、と味わえること。
そんな本当に本当に些細なことが、
極上の幸せなんだなあ、と思った。